マドリッド協定議定書上の代替制度とは
2025-06-26
【代替制度:マドリッド議定書】
マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録の代替とは、各指定締約国の国内商標を国際登録に一本化するための仕組みのことを言います。
マドリッド協定議定書が発効する前は、各国に対してはダイレクトに出願(パリ優先権を利用した場合も同様です)し、出願日は各国に現実に出願した日、登録日は各国が設定登録した日であり、存続期間、更新の期日も各国によって異なります。このため、各国に権利取得をした商標権者は商標管理に多くの負担が生じていました。
代替(置き換え)とは、国際登録より前に、対象となる国において国内登録を保有する名義人は、当該国の国内登録から生じる権利を害することなく、国際登録出願に国内登録の出願日、優先日、登録日等の利益を引き継ぐことを認めた制度ということができます(議定書4条の2)。
代替のメリットは、各指定締約国の国内商標を国際登録に一本化することで、各国ごとの管理が不要となり、更新や各種変更手続をWIPOの国際登録簿に対してのみ行うことで、手続負担やコスト削減を可能にする点にあります。
また、各国の商標権の存続期間も、国際登録日から10年(直近更新日から10年)であり、各国における更新期間が異なるということもありません。
代替には次の要件が求められます。⑴商標が同一であること、⑵名義人が同一であること、⑶国際登録の保護(国際出願時の領域指定又は事後指定)が国内登録後にその指定国に及んでいること、⑷国際登録に国内登録の指定商品・役務が含まれていること(包含関係にあること)。
なお⑷の包含関係については、2021年11月1日発効の規則改正により、国内登録の商品役務と国際登録の商品役務が一部重なっている場合、いわゆる「一部代替」が可能であることが明確化されました。ただし、これまで国際登録が国内登録の商品役務を全てカバーしていなければ代替は認められないと解釈していた締約国もあるため、締約国は2025年2月1日まで適用猶予がなされています以上の4つの条件を満たす場合に、自動的に代替の効果(国内登録の出願日、優先日、登録日等の利益を引き継ぐ効果)が発生します。すなわち、国内登録は自動的に国際登録に置き換わることになります(マドリッド協定議定書第4条の2(1))。
【日本での取り扱い】
条約4条の2⑴では、代替の効果を「当該国際登録は、当該国内登録又は広域登録により生ずるすべての権利を害することなく、かつ、次の(ⅰ)から(ⅲ)までの条件を満たすことを条件として、当該国内登録又は広域登録に代替することができるものとみなす。」との規定を受け、既存の国に商標権と国際登録に基づく商標権の併存登録(我が国では商標法第3条の趣旨に反するの例外として)を認めています。
並存登録を認めない場合には国際登録に基づく商標権のみとなった場合、いわゆるセントラルアタックにより、商標権の権利を害する虞れがあるからです。また次回更新の際には、商標権の管理の一本化のため、国内商標権は更新せず国内商標との並存状態は解消すると考えられます。
ただし、日本においては、代替後に国内登録を消滅させることは既得権を害すること、議定書では国際登録と国内登録を併存可能であることを前提としていること、国際登録による国際的な一括管理の利益のため、名義人は国内登録の更新をしない可能性があり、併存状態は解消し得ること、さらに、商標原簿・公報でその旨を公示することなどを考慮し、国内登録を国際登録に置き換えることなく併存させています。また、従来より、我が国商標法は一部代替を認めてきましたので、マドプロ規則の改正の影響は受けません。
なお、代替は条件を満たせば自動的に効果が発生します。ただし効果が発生しているか否かを明示的に確認するための仕組みとして、代替の記録の申請という手続きがあります(マドリッド協定議定書に基づく規則第21規則(1))。
名義人は指定締約国の官庁に対し、当該国の国内登録簿に国内登録が国際登録によって代替されている旨を記録する申請を行うことができます。当該申請は、WIPOによる指定国への国際登録による領域指定又は事後指定の通知の日以降に行うことができ、指定締約国の官庁は、申請により代替を記録した場合、その旨を国際事務局に通報し、国際事務局は通報された表示を国際登録簿に記録・公報に掲載し、その旨を名義人に通知します。
【マドプロ規則21条】
国際登録又は事後指定の通知の日以後,議定書第4 条の2(2) の規定に従い、名義人は、それぞれの場合に応じ、指定締約国の官庁の登録簿に国際登録について記録すべき旨の申請を直接その官庁へ提出することができる。当該申請を受けた官庁は、国内登録若しくは広域登録又は二つ以上の登録が、国際登録によって代替されている旨をその国内登録簿に記録した場合には、その旨を国際事務局に通報する。かかる通報には、次のものを表示する。