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国内:商標法

他人の氏名を含む商標の取り扱いについて(産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会第33回商標審査基準ワーキンググループ配付資料から)

2023-11-28

1初めに
4条1項8号の審査の概要が明らかになりました。従来は自己の氏名をした場合でも自己の氏名と同一の者が存する場合には、その者の承諾をとらない場合は登録されませんでした。これは、本後の趣旨が人格権を保護するものであるとされてきたことが理由です。しかし、自己の氏名が他人の氏名にも該当し、この氏名で商標権を取得したとしてもその他人の氏名が周知でなければ、人格権は棄損がされませんし、また自己の氏名と同一の者全ての者の承諾をとらないと商標権の取得が出来ない場合には、自己の氏名を商標として商品の販売を行うスタートアップ企業等の商標取得の要請に十分にこたえることができません。そのため、周知性がある氏名に限り、4条1項8号に該当することとなりました。
ただ、その周知性がある氏名の場合のみ、本号に該当するとした場合には、周知ではない氏名については、不正の目的等を有する者が商標権を取得することも考えられます。そのため、改正商標法では政令で定めることも要件としています。

2 審査の流れ
4条1項8号の審査の流れはどうなるのでっしょうか。令和5年10月6日開催の第33回商標審査基準ワーキンググループ配布資料1によると以下のような流れになるようです。

⑴ 出願商標が、「他人の周知な氏名」を含み、その他人の承諾を得ていない場合には4条1項8号に該当し商標登録を受けることができません。

⑵ 出願商標が、「他人の氏名」を含み、「政令で定める要件」に該当しない商標は商標登録を受けることはできません
ここで「政令で定める要件」とは、①「商標に含まれる他人の氏名と商標登録出願人との間に相当の関連性があること」及び➁「商標登録出願人が不正の目的で商標登録を受けようとするものでないこと」とされます。

3 問題点⑴(氏名の周知性)
審査の流れは上記2のようになるのは、改正条文からも理解ができるにですが、個々の規定をどう理解すべきかについては問題があります。現時点(令和5年11月末時点)である程度判明している事項及び、今後の課題とされている事項について以下説明していきます。

⑴ 氏名の同一性について
4条1項8号でいう氏名(特に漢字書体の場合)、齋藤〇〇と斉藤〇〇は同一の氏名とみるのでしょうか。この点は原則同一の氏名ではないというのが特許庁の見解(従って、斉藤〇〇が周知性を有していても引例とはならない)ですが、更にこの点の詳細は詰めていくとしています。

⑵ 氏名の周知性について
他人の「周知な商標を含む」場合の周知性の範囲はどの程度なのか問題となります。商標法では同様の規定ぶりをしている規定(3条2項、4条1項10号、32条等)が様々ありますが、全ての規定の趣旨が同じではありません。そのため周知性の範囲も個々的に判断します。本号の趣旨は、人格権の保護を趣旨とするものですので、「商標の使用をする商品又は役務の分野の相当程度の需要者に認識されている場合を意味」するとされます(第33回商標審査基準ワーキンググループ資料1)。
4条1項10号ほどの周知性は不要であることからも、「相当程度」という言葉が使われているものと考えられます。

⑶ 氏名の周知度は商標の使用する商品又は役務の分野の需要者の認識を基準とする
人格権保護の趣旨から、出願商標の指定商品や指定役務の重要者には限定されません。指定商品・役務を中心として、ある程度幅をもった需要者を対象とすべきと考えられます。なおこの場合の周知性は特定の分野の周知性をもっても足ります。その商品や役務分野に使用した場合に、その氏名が想起できるかという点が一つの基準となります。 なお、この需要者の中には取引者も含まれると解されます(あくまでも代表的なものとして「需要者」と規定した解されます)。
また、周知性は海外での使用により海外でのみ周知な場合も含むのか。特に外国人の氏名はそのような場合が多いため、国内周知性のみとした場合には実質的の外国人の人格権を保護することが不十分で、実施的には内外人間の不均衡を招くおそれもあることから問題であるとの指摘もあります。この点は、今後の課題とされています。

4 問題点⑵(政令に該当する場合)
出願商標が「他人の周知の氏名を含まない場合」には、政令に該当するか否かの判断がなされることになります。
その政令要件とは、①「商標に含まれる他人の氏名と商標登録出願人との間に相当の関連性があること」及び➁「商標登録出願人が不正の目的で商標登録を受けようとするものでないこと」が規定される予定です。
その際の問題点は以下のようなものが考えられます。

⑴ ①の要件の「相当の関連性」とはどのようないものを指すのか
抽象的な言葉であり、何を意味するか理解し難い言葉ですが、出願商標が「周知ではない他人の氏名を含む場合」には登録が容易で全く関連性のない者の権利化がなされることがあり、それを防止することが趣旨です。そのため、政令要件①に該当する場合とは「出願商標に含まれる他人の氏名が、出願人の自己氏名、創業者や代表者の氏名、出願前から継続的に使用している店名等である場合は相当の関連性があるものと判断する」と考えられます。
なお、自己の氏名を出願した場合には「相当の関連性がある」と判断するというのは理解が容易ですが、自己のペンネーム等を出願した場合(使用実績があればある程度、「相当の関連性」の判断ができるが、将来を見越して未使用のペンネームを取得したい場合等)の「相当の関連性」の判断等は今後の課題とされています。

⑵ ②の要件の「不正の目的で商標登録を受けようとするものでないこと」とは何を意味するのか
例えば、他人への嫌がらせの目的や先取りして商標を買い取らせる目的が、公開されている情報や情報提供等により得られた資料から認められる場合は、不正の目的があるものと判断するとされます。 

【参考】 
産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会第33回商標審査基準ワーキンググループ配付資料



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